はじめに|この章は「バトンが渡されるシーン」
ここまでの流れをざっくり振り返ると――
- 第1章:イザナギ・イザナミによる 天地開闢〜国生み
- 第2章:アマテラスとスサノオの対立から、天岩戸隠れ〜再生
までで、「世界ができて」「光が戻る」ところを見てきました。
第3章では、
いよいよ 「地上の国=葦原中国(あしはらのなかつくに)を、だれが治めるのか?」
という問題に踏み込みます。
いよいよ 「地上の国=葦原中国(あしはらのなかつくに)を、だれが治めるのか?」
という問題に踏み込みます。
舞台は 出雲。
この地で国づくりを完成させた オオクニヌシ(大国主神) が、
最終的にアマテラスの孫(ニニギ)へ、「国をゆずる」ことになる物語――
それが 国譲り神話 です。
この地で国づくりを完成させた オオクニヌシ(大国主神) が、
最終的にアマテラスの孫(ニニギ)へ、「国をゆずる」ことになる物語――
それが 国譲り神話 です。
出雲大社
稲佐の浜
諏訪大社
稲佐の浜
諏訪大社
といった有名な神社・聖地は、この章に出てくる場面と直結しています。
ストーリーを知ったうえで参拝すると、旅が一気に“立体的”になります。
ストーリーを知ったうえで参拝すると、旅が一気に“立体的”になります。
1. 出雲が「物語の主舞台」になるまで
第2章の最後で、高天原を追い出されたスサノオは、
地上の世界・葦原中国の出雲の地にたどり着きました。
地上の世界・葦原中国の出雲の地にたどり着きました。
ここでスサノオは、
- ヤマタノオロチを退治し
- クシナダヒメと結婚し
- 新しい宮を構えて暮らす
という流れの中で、
暴れ神から「土地と人を守る神」へと変わっていきます。
暴れ神から「土地と人を守る神」へと変わっていきます。
その子孫として登場するのが、オオクニヌシ。
彼は出雲を拠点に、
彼は出雲を拠点に、
- 農業や医療、温泉、暮らしの知恵
- 土地の開拓やインフラ整備
といった“国づくり”を進め、
葦原中国を 「豊葦原瑞穂の国(とよあしはらのみずほのくに)」 =
「稲穂の美しい豊かな国」へと育てていきます。
葦原中国を 「豊葦原瑞穂の国(とよあしはらのみずほのくに)」 =
「稲穂の美しい豊かな国」へと育てていきます。
第1章でまだ“もや”だった世界が、
ここでようやく「実際に人が暮らす国」として整うイメージです。
2. 何度も失敗する“国取り交渉”|アメノホヒとアメノワカヒコ
世界の“地上パート”が整ってくると、
天の世界・高天原のアマテラスはこう考えます。
天の世界・高天原のアマテラスはこう考えます。
「豊葦原瑞穂の国は、
わたしの子孫が治めるべき国だ。」
そこでまず派遣されたのが、アメノホヒ(天菩比神)。
ところがアメノホヒは、
オオクニヌシに心服してしまい、
3年たってもまったく報告も帰還もしない という有様になります。
オオクニヌシに心服してしまい、
3年たってもまったく報告も帰還もしない という有様になります。
次に、アメノワカヒコ(天若日子命) が弓と矢を授けられ、地上へ。
ところがこちらも、
オオクニヌシの娘と結婚し、御殿を建てて住みついてしまい、
8年たっても何も報告しない という結果に。
オオクニヌシの娘と結婚し、御殿を建てて住みついてしまい、
8年たっても何も報告しない という結果に。
「さすがにこれはおかしい」と思った高天原は、
様子見のために雉(きじ)の ナキメ(鳴女) を送り込みますが、
アメノワカヒコに射殺され、その矢はなんと
再び高天原へと飛び返ってきます。
様子見のために雉(きじ)の ナキメ(鳴女) を送り込みますが、
アメノワカヒコに射殺され、その矢はなんと
再び高天原へと飛び返ってきます。
- タカミムスヒ:
「この矢がもし正しい心で射られたものなら、害はないはずだ。」
といって矢を投げ返すと、
地上でアメノワカヒコの胸に刺さり、彼はそのまま亡くなってしまいます。
地上でアメノワカヒコの胸に刺さり、彼はそのまま亡くなってしまいます。
こうして「懐柔路線」はことごとく失敗し、
最後は“武力を背景にした交渉”へ、物語が進んでいきます。
3. 稲佐の浜での対面|剣の上にあぐらをかくタケミカヅチ
いよいよ本格的な使者として派遣されるのが、
- タケミカヅチ(建御雷神) … 稲妻のように強い武神
- アメノトリフネ(天鳥船神)
※日本書紀ではタケミカヅチと並んで フツヌシ(経津主神) が登場
のコンビです。
二柱の神は、出雲の 稲佐(いなさ)の浜 に降り立ちます。
ここでタケミカヅチは、象徴的な“ポーズ”を取ります。
ここでタケミカヅチは、象徴的な“ポーズ”を取ります。
- 長い剣を抜く
- その剣を、波打ち際に逆さに突き立てる
- その 切っ先の上にあぐらをかいて座る
という、かなりインパクトのある登場シーンです。
そして、出雲を治めていたオオクニヌシに問います。
「この国を、天の神(アマテラス)の御子に譲るか?」
ここから、いよいよ 「国譲りの本番交渉」 が始まります。
現在のスポット
稲佐の浜(島根県出雲市大社町)は、
稲佐の浜(島根県出雲市大社町)は、
- タケミカヅチが降り立った浜
- 国譲り交渉の現場
として伝わる場所。
夕日がきれいな砂浜の中央に小さな島(弁天島)があり、
屏風岩なども含めて「物語のステージ」を感じながら歩けるスポットです。
4. 二人の息子、二つの答え|コトシロヌシとタケミナカタ
タケミカヅチの問いかけに対し、
オオクニヌシはすぐには答えず、こう返します。
オオクニヌシはすぐには答えず、こう返します。
「この国をどうするかは、
わたし一人では決められない。
息子たちの意見を聞いてほしい。」
そこで名前が挙がるのが、二柱の御子神です。
- コトシロヌシ(事代主神):恵比寿様
→ 美保崎(美保関)で釣りをしていた神 - タケミナカタ(建御名方神)
→ 強大な腕力を誇る若い神
まずはコトシロヌシのもとへ使いが走ります。
美保の岬で釣りをしていたコトシロヌシは、こう即答します。
美保の岬で釣りをしていたコトシロヌシは、こう即答します。
「それは恐れ多いことです。
この国は天照大御神の御子にお譲りしましょう。」
そう言うと、
天逆手(あめのむかえで)=特別な拍手 を打ち、
自分の乗っていた船を「青柴垣」に変えて、
その中に身を隠してしまいます。
天逆手(あめのむかえで)=特別な拍手 を打ち、
自分の乗っていた船を「青柴垣」に変えて、
その中に身を隠してしまいます。
一方、タケミナカタはまったく違う反応を見せます。
「我が国に来て、こそこそ何を言っている。
そんなにこの国が欲しいなら、力比べだ!」
そう言ってタケミカヅチの腕をつかむと、
タケミカヅチの腕は 氷柱のように凍り、やがて剣の刃のような鋭さに変わります。
驚いたタケミナカタがひるんでいると、
今度はタケミカヅチがタケミナカタの腕をつかみ、
タケミカヅチの腕は 氷柱のように凍り、やがて剣の刃のような鋭さに変わります。
驚いたタケミナカタがひるんでいると、
今度はタケミカヅチがタケミナカタの腕をつかみ、
「葦(あし)の若茎(わかぐき)」のように軽くひねって投げ飛ばした
と描かれます。
ここから、タケミナカタの大逃走劇(長野県の諏訪へ)が始まります。
現在のスポット
コトシロヌシが釣りをしていたとされる 美保崎 は、
島根県松江市美保関町の 美保神社 と結びつけられています。
恵比寿様ゆかりの「漁業と商売繁盛」の神社で、
出雲大社と合わせて参拝する“出雲+美保の旅”も人気のコースです。
コトシロヌシが釣りをしていたとされる 美保崎 は、
島根県松江市美保関町の 美保神社 と結びつけられています。
恵比寿様ゆかりの「漁業と商売繁盛」の神社で、
出雲大社と合わせて参拝する“出雲+美保の旅”も人気のコースです。
豆知識|だいこく様とえびす様は「親子」だった?
- オオクニヌシ(大国主神)
→ のちに「大黒様」と習合 - コトシロヌシ(事代主神)
→ 鯛と釣竿を持つ「恵比寿様」と習合
として信仰されるようになります。
「米俵の上のだいこく様」と「鯛を抱えたえびす様」が、
国譲り神話では“父と子”として登場する、
というのはちょっと意外なつながりですよね。
国譲り神話では“父と子”として登場する、
というのはちょっと意外なつながりですよね。
5. 諏訪まで逃げたタケミナカタ|「お諏訪さま」のルーツ
力比べに敗れたタケミナカタは、
恐ろしくなって一目散に逃げ出します。
恐ろしくなって一目散に逃げ出します。
タケミカヅチはこれを追いかけ、
追いつ追われつの末に、
とうとう 信濃国(現在の長野県)・諏訪湖 のあたりで追い詰めます。
追いつ追われつの末に、
とうとう 信濃国(現在の長野県)・諏訪湖 のあたりで追い詰めます。
そこでタケミナカタは観念し、こう誓います。
「もう争いません。
わたしはこの諏訪の地から外には出ません。
葦原中国の国はすべて、天神の御子にお譲りします。」
こうしてタケミナカタは、
諏訪の地にとどまり、その土地の守り神となる 道を選びます。
諏訪の地にとどまり、その土地の守り神となる 道を選びます。
豆知識|タケミナカタと諏訪信仰
タケミナカタは、現在の 諏訪大社(長野県) の祭神として祀られ、
全国の「お諏訪さま」として広く信仰されています。
全国の「お諏訪さま」として広く信仰されています。
- 風・水・軍神
- 武勇と開拓の神
- そして「諏訪から外へ出ない神」
というイメージは、
この国譲り神話のラストシーンから来ているとされています。
この国譲り神話のラストシーンから来ているとされています。
諏訪湖畔や周辺の巨石・磐座(いわくら)には、
タケミナカタが投げた“つぶて石”と伝わる岩も残っており、
出雲からはるか信濃まで続くストーリーを感じさせます。
タケミナカタが投げた“つぶて石”と伝わる岩も残っており、
出雲からはるか信濃まで続くストーリーを感じさせます。
6. オオクニヌシの条件と出雲大社|見える国と“見えない国”
タケミナカタが降参し、
コトシロヌシもすでに国譲りに賛成していることを聞いたオオクニヌシは、
ついに決断を下します。
コトシロヌシもすでに国譲りに賛成していることを聞いたオオクニヌシは、
ついに決断を下します。
「それならば、この国を天神の御子にお譲りしましょう。
ただ一つだけ、願いがあります。」
その条件とは、
「天つ神(あまつかみ)の御殿と同じくらい、
立派な神殿をこの地に建て、
そこにわたしを祀ってほしい。」
というものでした。
タケミカヅチはこの願いを受け入れ、
出雲の多芸志の小浜に 巨大な神殿 を造営します。
これが 出雲大社の起源 とされています。
出雲の多芸志の小浜に 巨大な神殿 を造営します。
これが 出雲大社の起源 とされています。
オオクニヌシは、その神殿に鎮まり、
コトシロヌシには、多くの神々を率いて
「天つ神の子孫に仕える側」 に回るよう命じた――
と物語は結ばれます。
コトシロヌシには、多くの神々を率いて
「天つ神の子孫に仕える側」 に回るよう命じた――
と物語は結ばれます。
ここでオオクニヌシは、
- 地上の「見える政治」 は天孫にゆずり
- 自らは 「見えない世界(幽世)」を司る王 になる
というポジションを選んだ、とも解釈できます。
現在のスポット
- 出雲大社(島根県出雲市大社町)
→ オオクニヌシが鎮まる神殿 - 稲佐の浜、屏風岩、弁天島
→ 国譲り交渉の舞台 - つぶて岩 など
→ タケミナカタとの力比べにちなんだ岩と伝わるスポットも
出雲の海と社殿をセットで歩くと、
「政治交渉+信仰のドラマ」として景色が見えてきます。
「政治交渉+信仰のドラマ」として景色が見えてきます。
7. 国譲り神話は何を語っているのか|政治とスピリチュアル
国譲り神話には、いくつもの“読み方”があります。
- 天の国=高天原が、地上の国の支配権を得る物語
→ 天皇家による日本列島支配の“神話的正当化” - 出雲(在地勢力)からヤマト(大和朝廷)への、
権力移行を象徴する政治神話 - オオクニヌシが、次の世代にバトンを渡し、
自分は「見えない世界」の主となるスピリチュアルな物語
旅目線でシンプルにまとめるなら、こんな感じです。
- 出雲 :「縁結び」「見えないご縁」「目に見えない力」の中心
- 伊勢・大和 :「国家」「制度」「目に見える秩序」の中心
どちらか一方だけでは世界は回らない、
表と裏・可視と不可視がセットで日本を支えている――
そんなメッセージを、国譲り神話は静かに語っているようにも見えます。
表と裏・可視と不可視がセットで日本を支えている――
そんなメッセージを、国譲り神話は静かに語っているようにも見えます。
稲佐の浜で波を眺めたり、出雲大社の前で手を合わせたり、
諏訪湖畔で風を感じたりするときに、
諏訪湖畔で風を感じたりするときに、
「ここで、どんな神さまたちの“話し合い”があったのかな?」
と想像してみると、参拝の時間が少し深くなります。
8. この章のまとめ|出雲・諏訪を歩くための神話マップ
第3章「出雲と国譲り」では――
- オオクニヌシが出雲で 豊葦原瑞穂の国 を完成させたこと
- 高天原が、何度も使者を送りながら
最終的にタケミカヅチによる“剣の上の交渉”に至る流れ - コトシロヌシの即決の「譲ります」という一言と、
タケミナカタの力比べ → 諏訪への逃走 - オオクニヌシが、国を譲る代わりに
巨大な神殿=出雲大社 を望んだこと - そして、オオクニヌシが「見えない世界の主」として残る構図
をたどりました。
この章をおさえておくと、旅のときの見え方が変わります。
- 出雲大社 … 国譲り後も「ご縁」を司るオオクニヌシの拠点
- 稲佐の浜 … タケミカヅチとオオクニヌシが向き合った交渉の浜
- 美保神社 … コトシロヌシ(えびす様)が釣りをしていた美保崎
- 諏訪大社 … タケミナカタが「ここから外へは出ない」と誓った土地
次の第4章では、
この「ゆずり受けた地上の国」に、
アマテラスの孫・ニニギが実際に降り立つ 「天孫降臨」 の物語へ進んでいきます。
舞台は、九州・高千穂や霧島へ――。
この「ゆずり受けた地上の国」に、
アマテラスの孫・ニニギが実際に降り立つ 「天孫降臨」 の物語へ進んでいきます。
舞台は、九州・高千穂や霧島へ――。








