はじめに|出雲で渡された“バトン”が、九州へ届く
第3章で見たように、
出雲の大国主神(おおくにぬし)は、自分が育ててきた国を天照大御神(あまてらすおおみかみ)たちの系譜に「譲る」ことを決めました。
では、その国を実際に治めるのは誰か?
その答えとして登場するのが、
天照大御神の孫にあたる 邇邇芸命(ににぎのみこと) です。
ここから舞台は出雲から九州へ。
いよいよ「天の一族が、地上の国に降りてくる」クライマックス、天孫降臨 が描かれます。
この第4章では、
- なぜニニギが選ばれたのか
- 三種の神器を託されて、どのように地上に降りたのか
- どの場所が「天孫降臨の地」と伝わっているのか
といったポイントを押さえながら、高千穂・霧島エリアの神話スポット を“物語の目線”で見ていきます。
1. 「豊葦原瑞穂の国」を託されたニニギ
国譲りが済んだとはいえ、
高天原から見れば葦原中国(あしはらのなかつくに)は、まだ「最終的なトップ」が定まっていない状態でした。
そこで天照大御神は、孫であるニニギにこう告げます。
「この豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)を、お前に治めさせよう」
ここで出てくる「瑞穂」とは、
みずみずしく実った稲の穂 のこと。
つまり日本は、もともと
「みずみずしい稲の実る、豊かな田んぼの国」
としてイメージされていたわけです。
ニニギに託されたのは、
単なる“支配”ではなく、
稲作を中心とした「豊かな暮らし」を守り、続けていくこと
だった、と考えるとすっきり理解できます。
2. 三種の神器を託される|「この国を治める印」
ニニギが地上へ向かう前に、
天照大御神は、とても大切な三つの宝物を授けます。
- 八咫鏡(やたのかがみ)
- 草薙剣(くさなぎのつるぎ)
- 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)
これが有名な 三種の神器 です。
のちに「天皇がこの国を治める正当な証」として、代々受け継がれていくことになります。
それぞれには、こんな意味が重ねられています。
- 鏡 … 神さまの光と、正しい心を映す象徴
- 剣 … 危機から人々を守る力の象徴
- 勾玉 … 命のつながり・血筋・和(調和)を表す玉
神話の世界では、日本は
「武力で奪い取った国」ではなく、
神器とともに“正式に任されている国”
なのだ、というイメージがここで強く打ち出されています。
3. 道案内のサルタヒコと、「天の八重棚雲」を押し分けて
「さあ、地上へ降りよう」となったとき、
ニニギの一行を先導したのが 猿田彦神(さるたひこのかみ) です。
長身で、鼻も高く、
まさに“道の神・案内の神”らしい風貌の神さま。
役割としては、
「高天原と地上のあいだ」をつなぐ
ナビゲーター兼ボディガード
のような存在だとイメージすると分かりやすいです。
神話では、ニニギたちは
「天の八重棚雲(やえたなぐも)を押し分けて」
九州の地へと降りていきます。
このシーンはまさに、
雲の上の世界から、
山や海のある“現実の地形”の世界へ、ストンと降りてくる瞬間。
ここで初めて、
高天原での抽象的な話と、私たちが立つ 「具体的な場所」 がつながりはじめます。
豆知識|「天孫(てんそん)」ってなに?
「天孫」とは、文字どおり
天照大御神の孫=天から来た子孫
を指す言葉です。
- ニニギは「第一世代の天孫」
- その子孫が、のちの神武天皇へとつながっていく
という流れで、日本の「王権のルーツ」が語られています。
神話をたどる旅では、
「この神社は“天孫サイド”なのか、
“地上の先住神サイド”なのか
という視点で見てみると、
出雲と九州・大和の関係が立体的に見えてきます。
4. 高千穂に降り立つ|二つの「天孫降臨の地」
では、ニニギが実際に降り立った場所はどこなのか。
伝承では、大きく2つの候補地が語られています。
- 宮崎県・高千穂町周辺(くしふるの峰・二上山など)
- 宮崎〜鹿児島県境・霧島連山の高千穂峰(たかちほのみね)
どちらも、
「こここそ天孫降臨の地だ」
と伝えられており、中世以来ずっと論争のタネになってきました。
国学者・本居宣長は、
「最初に西臼杵郡の高千穂に降り、その後霧島に遷ったのではないか」
という “二段階降臨説” まで唱えています。
ただ、旅人の目線で言えば、答えを一つに決める必要はありません。
- 山の高千穂 … 霧島高千穂峰・霧島神宮
- 里の高千穂 … 宮崎県高千穂町・高千穂神社・くしふる神社 など
どちらも 「天から降りてくる物語」を感じられる舞台 として楽しめます。
- 山のピークに立てば…
→ 雲を押し分けて降りてきた、ダイナミックな**天孫降臨の“瞬間”**をイメージしやすい - 里の高千穂を歩けば…
→ 神々が人々の暮らしに近づいてくる、“地上の日常”に神話が混ざる感じを味わえる
同じ神話を、「山の視点」と「里の視点」 から見比べられるのが、このエリアの面白さです。
豆知識|霧島高千穂峰と「天の逆鉾(あまのさかほこ)」
霧島連山の 高千穂峰 の山頂には、
国づくりの際に使われたと伝わる 「天の逆鉾(あまのさかほこ)」 が立てられています。
- イザナギ・イザナミが世界をかき混ぜた 天沼矛(あめのぬぼこ)
- ニニギが降り立つとき、目印のように残された鉾
といったイメージが重ねられ、
「やはりこここそ、天孫降臨の地だ」
と主張する大きな根拠のひとつにもなっています。
登山で山頂に立つと、
雲の海の上に突き出した “神話のアンテナ” のように見えてくるはずです。
5. コノハナサクヤヒメとの出会い|「地上の暮らし」が動き出す
地上に降り立ったニニギは、やがて
木花咲耶姫(このはなさくやひめ) と出会います。
- 山桜のように美しく
- 火山・噴火のイメージも背負った女神
として語られることが多く、
霧島の火山帯 や、のちには 富士山の神さま とも重ねられていきます。
ニニギはコノハナサクヤヒメに一目ぼれし、結婚を申し込みます。
ここから、
「天から来た一族」と「地上の土地の女神」
が結びつくことで、
- 神々の系譜が、いよいよ「地上の血筋」として動きはじめる
- 後の天皇へつながる“家系図”が、本格的にスタートする
という、大きな転換点に入っていきます。
6. 「海幸・山幸」の物語へ|海の道との接続
ニニギとコノハナサクヤヒメの子どもの世代になると、
有名な 「海幸彦・山幸彦(うみさちひこ・やまさちひこ)」 の物語が展開されます。
- 兄:海幸彦 … 海の恵みを司る
- 弟:山幸彦 … 山の恵みを司る
山幸彦は、やがて
- 海神(わたつみ)の宮 に向かい
- 海の一族と縁を結びながら、
- のちに天皇家へとつながる流れを作っていきます。
ここから物語は、九州の山だけでなく、
- 日向の海辺(青島・鵜戸神宮など)
- そして最終的には、大和へ向かう 「海のルート」
ともつながっていきます。
九州の神話スポットを巡るなら、
「山の高千穂」+「日向の海辺(青島〜鵜戸方面)」をセットで訪ねると、
- 天孫降臨
- コノハナサクヤヒメとの結婚
- 海幸・山幸の物語
までを、一つながりのストーリーとして体感しやすくなります。
7. この章のまとめ|天と地の距離が、ぐっと近づく
第4章「九州での天孫降臨」では、
- アマテラスが、豊葦原瑞穂国を孫・ニニギに託す
- 三種の神器 を渡し、「この国を治める印」を持たせる
- 猿田彦の案内で、雲を押し分けて高千穂へ降り立つ
- 宮崎・高千穂と霧島高千穂峰という、二つの伝承地 がある
- コノハナサクヤヒメとの結婚から、海幸・山幸を経て天皇家の系譜へつながっていく
という流れを見てきました。
ここで押さえておきたいのは、
- 出雲の「国譲り」で決まった**“ルール”が、九州で“現場に反映”される章**であること
- 山(高千穂・霧島)と海(日向の海辺) が、天皇家のルーツと深く結びついていること
- 物語が、いよいよ大和での「建国」(神武東征)へバトンを渡す直前の段階に来ていること
です。
この世界観を頭の片すみに置きながら、
高千穂峡を歩いたり、霧島神宮や高千穂峰に立ってみると、
「あ、ここは“天から降りてくるシーン”の、あの一コマだ」
と、いま目の前にある景色が、
一気に “神話モード” で立体的に見えてくるはずです。
九州で育ったこの血筋が、ついに 大和へと渡り、「建国の物語(神武東征)」 へ進んでいきます。神話の物語が歴史へとつながっていきます。
▼ここでもう一度神話の全体像をざっと確認しておきましょう!









